口腔内のメカニズムはなぜ治癒が早いのか?
その生体メカニズムを解明。
口腔に生じた傷は皮膚よりも治癒が早く、傷痕が残りにくいと言われています。これまでそのメカニズムは解明されていませんでしたが、九州大学大学院歯学研究院の城戸瑞穂准教授、自然科学研究機構生理学研究所の富永真琴らの研究グループの発表によってその一端が明らかとなりました。
研究グループは、カルシウム透過性の高い温度感受性イオンチャネルであるTRPV3に着目した。口腔粘膜の表面には上皮細胞が層をなしている。その上皮細胞は体温の36度前後の温かさに反応するが、その温度の受容をTRPV3が担っていることを確認。さらに、皮膚の培養角化細胞よりも口腔の上皮細胞の方がTRPV3の発現が強いことから、TRPV3が口腔の傷の治癒に関わっているのではないかと考えました。
マウスの歯を抜いて傷の治り具合を調べたところ、TRPV3遺伝子欠損は野生型マウスに比べ、治癒が遅れるという結果に。また、TRPV3の欠損により上皮細胞の増殖が野生型に比べて劣っていることが、創傷治癒の遅延に関与していることがわかった。さらに、上皮細胞の成長と増殖には上皮成長因子受容体が必要だが、TRPV3ぼ欠損により活性化が抑えられていた。
研究グループは、「この結果により、温度感受性チャネルが口腔内の創傷治癒の仕組みに関係していることがわかりました。TRPV3は口腔だけでなく、消化管粘膜や皮膚にも発現しており、火傷や手術創、口内炎などの治療に、このTRPV3チャネルを標的とした温熱療法や薬剤の開発が期待されています」としている。